視覚的な説明の是非

  • 公開日時: 2010/01/19 02:15
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  • カテゴリ: 入試・教育

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4ページにも渡り,先生のご見解をまとめていただき,ありがとうございました。大学時代に,ワイエルシュトラスの例

[式:…] (ただし,[式:…] は正の奇数,[式:…]

が連続関数であってしかもいたるところ微分不能であることを知ったときの驚きを思い出しました(解析入門,田島一郎)。

高校の教科書の下に凸の説明がおかしいことは以前から思っておりましたが,教科書でそう書いてある以上,高校生にどこまでのことを要求するかということに非常に疑問を持っておりました。しかし,気持ちの整理がつきました。「数学的事実に依存するのではなく,人間性に依存する」という先生の一言がすべてを片付けてくれたように思います。

「できるならば数式で,できないときや時間のないときには図で」くらいの感覚がよいのかもしれません。私自身が神経質になりすぎないことが必要だと感じました。ありがとうございました。
中瀬古 佳史 さん 2010/01/24 22:39:57 報告
\documentclass[12pt]{jsarticle} \usepackage[dvips]{graphicx,color} \usepackage[deluxe]{otf} \usepackage{amsmath,ceo} \begin{document} この記事は事前に平賀先生に検討をしていただきました.学習院大の問題を具体的に書き直しました. あんぱんまんさんの記述について,どう答えればよいのか,少し迷いました. なお,凸性については平賀先生の記事  http://suseum.jp/gq/question/667 にあります. また「上に凸である」といったことを既知として使っていいのか についての平賀先生のコメントは  http://suseum.jp/gq/question/718 にありますので参考にしてください. \vspace{2mm} \h【{\gt 凸の定義}】手元の教科書には次のようなことが書いてあります.わざと原文を変えましたが,内容は同じです. 「微分可能な関数$y=f(x)$のグラフを$C$とする.$x$が増加するにつれて接線の傾きが増加するとき$C$は下に凸であるという」これをもって凸の定義とするならば,間違いと言ってもよいほどの書き方ですから,これは「{\gt 定義ではなく,初心者に凸を説明したもの}」と解釈するべきでしょう.なぜなら,凸というのは微分不可能な関数にも定義されるものだからです. \H\includegraphics[width=3.5cm]{bibunkanou-jyouge3.eps} 正しい凸の定義(狭義の凸)は次のようになります. 関数$f$のグラフを$C$とする.$C$上に任意に点A$(x_1,f(x_1))$,B$(x_2,f(x_2))$をとる.ただし$x_1<x_2$とする.$x_1<x<x_2$にある$C$のグラフが線分ABより下方にあるとき,$C$は下に凸であるという.これを式で表せば \[ f(x)<\dfrac{f(x_1)-f(x_2)}{x_1-x_2}(x-x_1)+f(x_1)\quad (x_1<x<x_2) \] が任意の$x$に対して成り立つということです. \vspace{2mm} \h【{\gt 凹凸の不等式を使って解いていいの?}】どんな場合も視覚的に説明するのはダメで「式でやるべきだ」という立場の先生がいます.一方で,Jensenの定理を証明せよという問題ですら,図で説明して,それを「証明としてもよい」という先生もいます.\\ 次は96年の学習院大・経の問題です.\\ $a,b$は定数で$f(x)=x^2+ax+b$とする.$p\geq 0,q\geq 0,p+q=1$のとき,すべての$x,y$に対して$pf(x)+qf(y)\geq f(px+qy)$が成り立つことを示せ.\\ 学習院大で行われた「大学入試懇談会」の席上で,出題者は「式でやらないで,$q:p$の内分点を考え,グラフで視覚的に説明してよい」ということでした.それを受験雑誌「大学への数学」に書いたところ「この解法はいかん」と言った高校教員がいたそうです.その先生は,常に「式でやるべきだ」という立場なのでしょう\\ これは両極端の例で,凸性の定義式そのものの証明なら式で示した方がよくて,Jensenの定理の応用なら使ってよいという先生の割合はかなり高くなるのではないでしょうか? 学習院大の立場を,想像で勝手に補えば「数学の素人さん達にうるさいことを言っても仕方ないから,そこそこそれなりに書けていれば,それでいいじゃん」ということなのだと思います.これについては,先生方,それぞれに意見があると思います.ここで言いたいのは,実際にそうした例があったということです.だから「視覚的な説明をした答案は,どこの誰が採点しても減点だ」という命題は偽だということです.だからといって「どこの誰が採点しても満点だ」などというつもりもありません. 私は,採点基準の公開をすべきだと思っています.よきにつけ悪しきにつけ,他者の採点基準を見て,それなりのところに収束していくはずです.「図を描いて説明するのがいけないというなら,数学者が話し合って決め,これはいい,これは悪いと,指針を示すべきではないか?」と思うのです. 京大の91年に凸性を使える問題があります.当時は,採点者に採点基準が任されていました.現在は統一が図られています.それを採点した知人は「凸性を使ったからと言って減点するつもりはなかった.しかし,そうした答案は,見た範囲では一枚もなかった」と言っています.しかし,これを拡大解釈しないでください.彼はそういう採点基準にしたということで,他の人が採点すれば変わってくる可能性はあります. \vspace{2mm} \h【{\gt 図を使って証明することの是非}】ここで「曲線$y=f(x)$は下に凸で,直線$y=mx+n$は曲線$y=f(x)$と接するから, $f(x)\geq mx+n$である」という文書を書いたとします.下左図のように, 数学IIで,2次関数$y=x^2$のグラフと直線$y=2x-1$の上下関係を視覚的に考察したとしても,おそらく誰も「説明不足だから減点だ」とは言わないでしょう? つまり,数学IIまでのモードでは,グラフを利用して考えてよいのです.ところが「曲線$y=e^x$は下に凸で,直線$y=x+1$は曲線$y=f(x)$と点$(0,1)$接するから, $e^x\geq x+1$である」と書くと「それはいかん.$g(x)=e^x-(x+1)$として微分し,$g(x)\geq 0$であることを式で証明しないと減点だ」と発言する先生が出てきます.というか,大半の先生がそう発言するはずです.ここで,スイッチが入り「式重視モード」に切り替わるのです.不思議でしょう? \H\includegraphics[width=3.5cm]{bibunkanou-jyouge1.eps} \H\includegraphics[width=3.5cm]{bibunkanou-jyouge2.eps} これは数学の歴史が関係しています.直観的に説明して,間違った歴史があるのです.有名な例は「どんな連続関数も,微分可能な点が必ずあるか?」というものです.連続とは,直観的な説明をすれば\poka\\ グラフがつながっていることです. \includegraphics[width=8cm]{bibunkanou.eps} 以下の関数や数学者の名前などは「フーリエ解析大全」を参考にしています.微分可能とは,接線がただ1本引けて,それが$x$軸に垂直でないことです.上図のAではグラフがとがっているので微分不可能ですが,それ以外では滑らかです.A以外のすべての点で接線が引けます.微分不可能な点をもつどんな関数でも,どこかにこうしたなめらかな部分があるだろうと,当初は思われていました.そして,その証明(!)を載せていた教科書もあったらしいのです.ところが,ワイエルシュトラスや,高木貞治,スレリエなどの数学者が「至る所でグラフが連続で,至る所で微分不可能なものがある」ということを証明しました.そうした関数の一例は次の式で与えられます.この関数は「フーリエ解析大全」からの引用です. \[ f_n(x)=\wa{k=0}{n}\dfrac{\sin (x(k!)^2)}{k!} ,\; f(x)=\lim_{n\to\infty}f_n(x) \] とすると,$f(x)$は至る所で連続,至る所で微分不可能になることが証明できますが,証明は難しいので,とてもここには書けません.大体,私の学力を超えているので,よくわからんし\poka\\ 証明の細部をご覧になりたいかたは「フーリエ解析大全」をご覧ください. この曲線$y=f(x)$は描けないので,極限をとる前の,曲線$y=f_{10}(x)$を下に描きました. \H\includegraphics[width=3.5cm]{bibunkanou-2.eps} いやに線が太いなと思うでしょう?太いのではなく,狭い範囲で急速に上下動し,ギザギザしているのです.グラフが描けない関数があるというのは驚きですね.スレリエ,ボルツァノは,発見したことを発表しなかったそうですから,彼らの心の内が想像されます. この例にとどまらず,解析学(大学の微積分)では,式で行わなければどうしようもないという場面があちこちにあります.だから,大学では,微積分は式で行うというのが,基本姿勢です. 後は,「それを高校生相手の数学IIIに持ち込むのが妥当か?」という点において,先生によって判断が分かれるのです.いろいろな人の意見を聞き,自分の最も信頼する先生の意見に従うなど,ご自分で判断してください. なお,ときどき,受験雑誌「大学への数学」を目の敵にしておられる方がおられます.こうしたもののいくつかは,お歳暮を贈ったりすることで解消\poka\\ してきました. 現在も京都の某高校の某先生が否定的な発言を繰り返されていると,あちこちから聞きます.いろいろな先生がいていいのではないでしょうか?皆が当社に好意的なら,そっちの方が怖い. \vspace{3mm} 以下追加しました.予備校は客商売です.受講生が集まって人気がでないといけません.本を書いている先生も同じでしょう.自分の本を売ろうと,正当性をアピールしたい.ついつい強い発言をすることになる人が多いです. 以前いた代ゼミでは,人気のあるなしは収入に極端に跳ね返りました. だから,僕も若いときには「大数が悪いという先生がいたら,つれておいで. 勝負しようぜ.東大の入試問題を,当日,一斉に解き始めて,どっちが早いか勝負だ.試験は解けてなんぼ.どっちのいう通りにしていたら問題が解けるか,実際に見せてやるぜ.」とか言っていました.まあ,先生が解けることと,生徒が解けるようになることは別なので,無茶苦茶な発言ではあります.極端な発言は,数学的事実に依存するのではなく,人間性に依存する点が多いので,あんぱんまんさんは「つねに聞き流すようにする」と,世界が平和になるかもしれません. \end{document}